私は駐在者、駐在帯同者でもなければ、ベイエリアという場所にいながらテック系には縁遠い生活をしている日本人です。
以前ツイッターで「テック系以外でベイエリアに来る人なんて、いるの?」という言葉を見つけて地味に傷ついたこともあります。つまり、このサンフランシスコ・ベイエリア・シリコンバレーでテックの恩恵も受けていなければ、駐在者の恩恵も受けていない、留学からの結婚からの移住者という立場で暮らしています。ですから、たまには駐在者へのジェラシーも感じるし、テックへのジェラシーも感じるし、キラキラしている国際結婚の発信や、キラキラしている海外生活の発信をしているのを見るのも苦手です。
私のブログへの検索ワードに「海外志向 うざい」というものが含まれていて、笑ってしまいました。私もアメリカに住んでいるけど「海外志向 うざい」と思う気持ちに共感しているタイプの人間です。なんとなく苦手意識があるのは私自身がかつてアメリカかぶれだったからかもしれません。恥ずかしくていたたまれなくなるからかも。
今日はキラキラしてないリアルな海外生活と「海外生活・海外移住ドヤ」が一切無い、やさしい社会学入門、とも呼べるノンフィクション小説をご紹介させてください。
- 海外で子育てしている
- 日本人以外の方との間に子どもがいる
- 海外生活が長くなってきた
- 多様性社会について考えたい
- 息子とのかかわり方がわからない
- 思春期の子どもが反抗期だ
- 日本社会にモヤモヤすることがある
- 海外で生きる意味を見失った
- 子どもを強く優しい子に育てたい
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自分もアメリカ生活は10数年になったし、一時期はそうであったにも関わらず、苗字がカタカナ、欧米の苗字で下の名前は日本人という名前を見ると苦手意識を覚えます。「ブレイディみかこ」さんというこの本を書かれた方のお名前を拝見した時に、気になるけど、、、なんか、読めない、という気持ちがありました。英国在住とのプロフィールを拝見し、
また欧米に住んでいる日本人女性のキラキラ国際結婚生活を読まされるのかぁ(読みたくない)と直感的に思いました。しかし帯を見ると「底辺中学校」という文字が見えたので、これは国際結婚失敗海外貧乏生活ストーリー?それもちょっと自分と重ねて苦しくなるから読みたくないなあとも思いました。
ところがどっこい、ものすごく期待を裏切られました(もちろん良い方に)。
この本のテーマをあげるとざっとこんな感じです
- 海外生活で日々感じる人種間の葛藤
- 社会的階級・貧富の差
- 日本人として海外で生きていくこと
- 移民たちが寄せ集まって生きていくこと
- 子どもを海外で(欧米で)育てるということ
- いじめとは何か
- 思春期の子どもたち
- ジェンダーとは?
- セクシャリティとは?
- ナショナリズムとは?
- アイデンティティって何?
- ポリティカルコレクトネスって何?
国際恋愛・国際結婚・海外在住を自慢するようなキラキラ要素は1ミリもない海外在住者のグローバルな視点で、社会を考える真面目な本なのに、堅苦しくなくて読みやすい。スッと入ってくる最高の一冊でした。
日本を出て海外で生きるために、常に考え続けていかねばならないテーマについての会話が英国在住の日本人の「母ちゃん」と中学生になる優等生の「ぼく」の間で繰り広げられるノンフィクション小説。この作品のよさがさらに引き立てられているのはブレイディみかこさんのご主人もたまに登場するのですが、彼のことをただ「配偶者」と描写してあるところ。印象薄めに描いてあるところがすごく良い。
「配偶者」は英国人で白人でかつてロンドンの金融街の銀行に勤めていたのだけれど、リストラされてかつてからの夢だったトラック運転手になったというのだからおもしろい。ホワイトカラーからブルーカラーへの転職。
海外生活や国際結婚を扱おうとするとどうしても「配偶者」や恋人など、「国際結婚・国際恋愛の相手」がかなりフィーチャーされて、国際結婚している私や配偶者や恋人自慢になりがち(そしてそれを読んだり見たりするのが苦しい)。または「国際結婚」や「海外在住」がその人のアイデンティティになってしまい、そこへのプライドが文章から「ドヤ」を醸し出す読み物になりがち。
この作品にはそんな気配がマジで1ミリも無く、英国に住む日本人の著者とその息子さんの生活や会話を通じて、英国社会の多様性が語られています。割とアメリカのこのあたり(カリフォルニアのベイエリア)と似ている印象ですごく、うん、わかる、の連続でした。
中学生という多感な時期に、息子さんのまっすぐな言葉や真摯に問題に向き合う姿がすごくよくて、こんな思春期の男の子に私の息子も育ってくれたら嬉しいな、と思ってしまいました。山田詠美先生のぼくは勉強ができないを彷彿させる作品でもあります。
そしてさらに、著者のブレイディみかこさんがご自身のことを「ママ」と呼ばずに「母ちゃん」と呼ぶところもとても好きです。かつて子どもなんか嫌いだったけど、子どもができて子どもと生きることの面白さを知り保育士の資格まで取ったというところがすごくいい。
息子が生まれると私は変わった。それまでは「子どもなんて大嫌い。あいつらは未熟で思いやりのないケダモノである」とか言っていたくせに、世の中に子どもほど面白いものはないと思うようになって保育士にまでなったのだがら、人生のパラダイムシフトと言ってもいいかもしれない(ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー P2より引用)。
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ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー名言集
付箋だらけなのですが、その中からいくつか、私が特に好きな母ちゃんとぼくのやり取りをご紹介します。
(知らない車が「ぼく」の前に止まった。その車に乗っていた17~18歳くらいの少年に「ファッキンチンク」と言われた時の「ぼく」が「母ちゃん」にその話をしているシーン)
「で、どうしたの?」
「相手の顔を見ないようにして、黙って違う方向を見ていたら、走り去っていった」
「うん。それでいい」とわたしは言った。
人種について:わざわざ野次に乗っからないこと、聞き流すこと、そういうことを言う相手とは関わらないこと。見下されたら真向から立ち向かうことは美徳かもしれないが、危険で現実的ではない。逃げるは恥だが役に立つ、という言葉もあるけれど、わざわざ相手にしないという闘い方もあるのだ。
どこに行ってもアジア人は「チンク(中国人を蔑む言葉)」としてまとめられてしまうことがある。本書にも出てくるが、ニーハオと声をかけられた時にイライラした経験が海外に住んだことがある日本人ならきっとあるんじゃないかな。その時だけの関わりの、無知な人は放っておくべしです。
(子どもたちが口にする人種差別的発言について母ちゃんがぼくに言う)
「無知なんだよ。誰かがそう言っているのを聞いて、大人はそういうことを言うんだと思って真似しているだけ」
「つまり、バカなの?」忌々しそうに息子が言った。
「いや、頭が悪いってことと無知ってことは違うから。知らないことは、知るときが来れば、その人は無知ではなくなる」
無知について:人間の思いこみや無知をこんな風に母ちゃんはぼくと語り合います。最近の誹謗中傷やBLM運動にも通じる「集団心理」について、母ちゃんはこう言います。
(クラスで起きたいじめについて)
「一人一人はいい子なのに、みんな別人みたいになって、どこまで行くんだろうって胸がどきどきした。」(中略)
「自分たちが正しいと集団で思い込むと、人間はクレイジーになるからね」
「盗むこともよくないけど、あんな風に勝手に人を有罪と決めて集団で誰かをいじめるのは最低だと思う」
子どもが小さい頃からこんな風に語り合うことができる親子ってすごくいい。
多様性について:個性を尊重するということは、ひとの数だけ価値観が違うということ。つまり、ひとの数だけ正義や正解が違うということでもあり、めんどうくささも伴う。母ちゃんはこう言っています。
「でも、多様性っていいことなんでしょ?学校でそう教わったけど?」
「うん」
「じゃあ、どうして多様性があるとややこしくなるの」
「多様性ってやつは物事をややこしくするし、喧嘩や衝突が絶えないし、そりゃないほうが楽よ」
「楽じゃないものが、どうしていいの?」
「楽ばっかりしていると、無知になるから」
アイデンティティ・帰属意識の問題:これが今後私と息子の人生にも起こり得ることなんだよなぁと改めて姿勢を正す気持ちになります。
「日本に行けば【ガイジン】って言われるし、こっちでは【チンク】とか言われるから、僕はどっちにも属さない。だから僕のほうでもどこかに属している気持ちになれない」
「それでいいんじゃない?どこにも属さないほうが人は自由でいられる」
「だけど、本当にそうなのかな。(…以下省略)」
海外に住んでいたり、両親が違う人種・民族である場合、子どもにはこのようなアイデンティティの問題がつきまといます。その時一緒に悩み、考えられる大人でありたいですね。
この本に私は救われました
この本は本当に素敵です。特に「海外に住む意味」や「海外で子育てする意義」を本書がリマインドし、私を励ましてくれました。
妊娠をきっかけに当時勤めていた会社を辞め、妊娠中のムードスイングも手伝い、なんで私はこんな土地にいるんだろう、どうして日本にいないんだろう、なんのためにアメリカにいるんだろう、、、そんな風に「ここに生きる意味」を見いだせなくなりました。
現在フルタイム育児+主婦をしています。家の中にずっといて、組織に属していないと、アメリカに住んでいる意味を見いだせなくなってしまってホームシックになります。
しかし、この本を読んで私はそもそも何のためにアメリカに来たのか思い出すことができました。
- 日本の「みんな同じ」文化に生きづらさを感じていた
- アメリカの「自由」で「個性を大切にする文化」に惹かれた
- ヒップホップやブラックカルチャーの反骨精神に惹かれた
- 自分だけの生き方をしたかった
- 女性だけが女性であるだけで女性であることを期待されるのはおかしいと思った
- ○○だから○○、というステレオタイプや偏見や決めつけに反発心を感じていた
私はかつてこのようなことを強く感じていたので、アメリカに学問をしにやってきたのでした。まさに本書に書かれているテーマを考えたくて、無知になりたくなくて、もっと世界を知りたくて、日本人はこういうことに無頓着で何もわかっていないと思ったから、ひとりひとりが大切にされる文化を生み出したい、自分らしく生きたいと願う人をサポートしたいと思ってた。
今もそれは変わっていない。けれど日々の生活に追われ過ぎて考え続ける面白さを忘れていたのかもしれない。
大志を抱いてやってきてから10年以上が過ぎ、フレッシュな野望を忘れ、問題を語り合い続けることの大切さを忘れ、衝突することを怖がるようになっていた自分に気がつきました。良い意味でも悪い意味でも妊娠出産を経て「平和ぼけ」していました。
多様性の中に生きることに疲れてきて、やっぱり平和な日本に帰りたいと思うことも沢山あって。こんなところより日本がいい、と思うことが沢山あったのだけど本書を読んで、ちょっと待てよ、と思い直しました。私は息子を多様性の中で揉まれて、「ぼく」のようなやさしくつよい子に育てたい。そう思った時、やっぱりアメリカで育児できることって幸運なことなんだ、と勇気が湧いてきました。
考えることの面白さ、ディベートをし続けることの重要さ、子どもたちとのかかわりで学ぶ新しい自分をおもしろがろう、子育てって楽しいね。くすぶっていた私に「そもそも」を思い出させてくれた大切な1冊です。
まとめ
キラキラしてない海外生活や国際結婚の話+真面目なテーマを固くし過ぎず考えるという最高のコンビネーションの1冊。子どもと生きていくこと、どうやって子どもと対話するか、どう社会を考え、どう教えていくか。皆さんはこの本を読んで何を感じるでしょうか。
子育てとは子どもと一緒に考えていくこと、共に学び、共に成長することですね。
生きづらい子どもたちのお話、最高の映画の話はこちらから
パンクロックな著者のデビュー作も読みたい!
花の命はノー・フューチャー: DELUXE EDITION (ちくま文庫)
やはりこの方はジャーナリストだったのか
THIS IS JAPAN :英国保育士が見た日本 (新潮文庫 ふ 57-1)
どうりでこのぼくはイエローで、、、もただの小説ではなかったのだと納得し、もっと彼女の書いたものを読みたくなりました。
子どもたちの階級闘争――ブロークン・ブリテンの無料託児所から